熊本県町村議会議長会は
平成31年3月 全国町村議会議長会「町村議会の議員報酬等のあり方 最終報告」
なり手不足解消に「住民と歩む議会」 住民福祉を向上し信頼される議会に
全国町村議会議長会の「町村議会議員の議員報酬等のあり方検討委員会」(委員長・江藤俊昭山梨学院大学教授)は平成31年3月、最終報告を取りまとめた。
報告では、なり手不足の要因として、議会・議員の魅力の減退、活動条件の貧弱性、地域力の低下が想定されることから、住民と歩む議会を創出し住民福祉の向上につなげ、住民の信頼を勝ち取ることが不可欠であるとした。
また、行政改革の論理(効率性重視)と議会改革の論理(地域民主主義実現)は全く異なるとし、議会改革を推進することこそが行政改革を推進することになると強調した。
議員報酬を考える視点として「議員報酬と定数は別の論理」「現在の議員のためだけでなく、多くの人が将来立候補し議員活動がしやすい条件として考える」などと指摘。事業所等で就労する議員の所得損失を補填する「所得損失手当(所得損失補填手当)」や、議員活動により子どもや扶養家族の世話を外部に委託する場合の経費を補填する「世話手当(子ども手当・介護手当)」の創設も提案した。
定数については、議員間で討議できる1常任委員会につき少なくとも7、8人を基準とし、すでに定数を削減している議会では、これ以上の削減は慎重に行うべきであるとした。
検討委は平成29年4月、最近の議員報酬や定数の動向を確認し今後の議論の考え方を提示することを目的に設置され、翌30年3月には中間報告が出されていた。メンバーは、委員長である江藤教授のほか、牛山久仁彦明治大学教授、長野基首都大学東京准教授の3人。
【全国町村議会議長会「町村議会の議員報酬等のあり方
最終報告」】
「住民自治の根幹」としての議会を作動し、報酬・定数削減の発想を克服せよ
「はじめに‐争点となった議員報酬・定数」は、委員長の江藤教授が担当した。要点は次のとおり。
○ 「住民自治の根幹」としての議会を作動させることが、報酬・定数の削減の発想を克服する正攻法であり、そのことが住民自治を進化させる。
○ 全国町村議会議長会は1978年、「議員報酬のあり方について」を提案していたが、本報告書では、今日の議会改革・議員活動に適合する新たな報酬等の設定の考え方から、その新たなバージョンを提示する。
○ 議員定数は大幅に減少しており、行政改革の論理が議員定数の論理にまで浸透している。住民自治を進める上での議員定数の論理やその決め方について、本報告書では検討している。
なり手不足解消には住民と歩む議会を創出し「住民福祉の向上」へつなげよ
第1章は「最近の町村議会の動向と報酬等の課題」と題し、委員長の江藤教授が担当した。「議員のなり手不足の要因と議員報酬」、「議員報酬の現状と議員の意識」、「議員報酬を考える8つの視点」の節で構成されている。要点は次のとおり。
○ なり手不足の要因として、議会・議員の魅力の減退、活動条件の貧弱性、地域力の低下が想定できる。条件の悪さを打開するには、住民と歩む議会を創出し、それを「住民福祉の向上」につなげ、住民の信頼を勝ち取ることが不可欠。
○ アンケート結果による議員の意識では、議員活動はボランティアでは無理だと評価している。
○ 議員報酬を考える8つの視点は以下のとおり。@答えのないテーマであり、自治体がそのポリシーを示す。A議員報酬と定数は別の論理。B行政改革の論理とは全く異なる議会改革の論理。C現在の議員のためだけでなく、多くの人が将来立候補し議員活動がしやすい条件として考える。D増加できないあるいは削減の場合は、住民による支援が不可欠。E住民と考える議員報酬・定数。F特別職報酬等審議会の有効活用。G「後出し」ではなく周知する十分な期間が必要。
報酬の低さ、定数の少なさは無投票当選につながる
第2章は「議員報酬・定数等に関する調査結果の分析」と題し、委員の長野准教授が担当した。「議員報酬の分析」、「アンケート調査に見る町村議会の状況」、「追跡調査から見る議員報酬検討過程への住民参加」、「無投票当選の発生と報酬検討過程への住民参加」、「まとめと今後の研究課題」の節で構成されている。要点は次のとおり。
○ 議員報酬の低さと議員定数の少なさが無投票当選につながる。無投票当選の発生を避けるのであれば、議員報酬と議員定数を一定の水準に保たなければならない。
○ 議員報酬検討過程での住民参加手続きの充実は「議員報酬増額」にプラスの作用を与えており、中でも人口が少ない町村で報酬増額の取り組みが行われている。
議員報酬増には議員の活動量を増やす必要
第3章は「議員報酬をめぐる現状と町村議会の取り組み」と題し、委員の牛山教授が担当した。「町村議会をとりまく環境」、「町村における議員報酬」、「町村議会における『なり手不足』への対応」、「議員報酬の今後と町村議会」の節で構成されている。要点は次のとおり。
○ 「なり手不足」の解消には、議員が専業で活動に取り組み、生活していけるための一定の報酬を確保することが求められる。ただし、生活を保障できる金額がどの程度のものかという点では多くの議論があろうし、議員であることの位置づけや意味についての検討も必要である。
○ 議員報酬増を見据えた場合、議会活動を活性化し、議員の活動量を増やすことが必要である。また、住民の議会活動への理解を促進させるために、議会報告会や住民との討論の場の設定など、より住民の意見を自治体行政に反映させるための活動が求められる。
○ 熟議を通じて自治体住民の意見を集約し、合意形成を図ると共に、それを政策立案に役立て、また行政が立案・執行することに対する行政統制を機能させることが必要である。そうしたことを実現させてこそ、町村議会に対する住民の支持が得られ、また魅力ある議会にすることで立候補者が増加し、「なり手不足」解消への展望が開けるのではないか。
議員報酬の基準に原価方式 議員活動示し住民福祉の向上につながったか説明を
第4章は「先駆議会(5町)の報酬額の算定方式」と題し、委員長の江藤教授が担当した。「議員報酬を考える基準と留意点」、「議員報酬をめぐる新たな議会の動向」の節で構成されている。要点は次のとおり。
○ 議員報酬の基準として原価方式を基礎に算定し住民に説明する試みが広がっている。原価方式を精緻化した会津若松市議会モデルは、議会活動(A領域)、議員活動(B領域)、議会活動・議員活動に付随した活動(質問や議案に関する調査等)(C領域)、それ以外の議員活動(議員としてかかわる住民活動等)(X領域)を中心にそれぞれ時間数を選定する。これにより導き出された数値は、住民と議論する際の素材であって、科学的な基準ではない。住民福祉の向上につながったのかを自己評価であっても説明することが必要である。
○ 議員活動にはグレーゾーンが存在し、原価方式を採用する際は、検証可能な活動だけ を考慮するものではない。少なくともこの程度は活動してほしいという現状及び期待を込めた活動を念頭に置いた、議会・議員活動の時間を便宜的に提示している。北海道浦幌町議会は、原価方式を活用しながらも、グレーゾーンを踏まえて、仮説としてその時間を半分とカウントして議員報酬の水準を確定している。
○ 夜間議会の安易な導入は議会力をダウンさせる。現状では夜間議会開催により議会の政策提言・監視機能を強化することは難しい。議会・議員活動は会議に出席することだけではない。
○ 議員の期末手当は条例に基づき支給できるが、その額の根拠は明確でなく、議会は報酬の議論の中に期末手当も含めて議論する必要がある。報酬以外には、育児手当、若者手当などは支給できず、子育て世代を議員とするためには、役務の対価としての議員報酬の議論ではなく、手当の議論を進めるべきではないか。
○ 議員の資質・能力としては、専門性を有した人材と市民性を有した人材を対立して捉えることはできず、そもそも住民は今日両方を有している。議員と住民を隔てるのは、情熱と選挙に当選するネットワークの有無である。
○ 議員の身分は「特別職」という規定はあるが、「非常勤」という規定はどこにもない。議員の役割を明確にする意味で自治法に「公選職」等の規定が必要である。
○ 新たな議会を担う議員を支援するのは報酬だけではなく、手当等、政務活動費、議会事務局・議会図書室の充実強化などとともに総合的に考えなければならない。
議員活動の説明前提に政務活動費の積極的制定を
第5章は「議員報酬を検討する上での留意点」と題し、委員長の江藤教授が担当した。要点は次のとおり。
○ 議会のリーダーに特別の報酬とすることは必要であり、役割の相違による報酬額の差違も必要である。議長、副議長、委員長、副委員長の報酬額は、一般議員の活動量との比較により算出される。
○ 政務活動費は、新たな議会の条件整備の一つとして積極的に制定すべきである。留意点として、議会・議員活動の説明が前提であること、議員報酬を考慮すべきこと、領収書の公開とともに成果報告書を作成するなど透明性の制度化を行う必要がある。
○ 本報告書では、積算方式によって首長の給与との比較から議員報酬を算出していることから、当然期末手当も支給することになる。
議員定数は「議会の機能が果たせるか否か」といった視点で議論を深めよ
第6章は「町村における議員定数をめぐる現状と課題」と題し、委員の牛山教授が担当した。要点は次のとおり。
○ 町村議会では議員の数を減らすことが当たり前のこととなっており、こうした減員によって、住民の意思を政治・行政に反映すべき議会の役割を果たすことができるのかどうか検討すべき。
○ 定数削減を行ったいずれの町村でも、定数削減の住民圧力が存在したことが推測できる。削減理由に財政的な負担の軽減が挙げられると同時に、議員のなり手不足を防ぐためには現行の報酬を維持または引き上げることが求められていることも、定数削減の理由に挙げられている点は注目すべき。
○ 議員定数減の理由として最も多く挙げられたのは「財政の悪化(行財政改革の一環)」、次いで「人口減少・将来人口の動向」、「住民からの批判・意見」、「他自治体(近隣自治体・類似団体)との比較」。
○ 議会の本来の役割と意義は、地方自治の本誌に基づき民意を政治・行政に反映し、民主的な自治行政の運営を図ることであり、自治体における民主主義の実現にとって議員定数の一方的な削減は問題がある。
○ 多様な民意を的確に反映するためには、必要な議員定数を確保することが求められる。必要な定数は、まずは財政や人口減少によらない、議会の機能が果たせるか否かといった視点での議論が深められる必要がある。
新しい議会には議員間討議が不可欠 常任委員会数×7〜8人を定数基準に
第7章は「議員定数をめぐる論点」と題し、委員長の江藤教授が担当した。要点は次のとおり。
○ 戦後人口増が続いているにもかかわらず、地方議会議員は減少してきた。住民代表性は希薄化しており、人口で定数を考慮することは絶対ではない。議員数の大幅な減少は民主主義の危機である。人口とは別の住民自治を作動させる定数の論理を確定する必要がある。
○ 新しい議会像から定数の基準を探ることが必要である。住民参加を豊富化し、それを踏まえて首長等と政策競争する。それには議員間討議が不可欠である。新しい議会に適合する人数は、討議できる人数を基本として、その討議を豊富化させるために住民が議会運営にかかわる手法を想定している。
○ 討議できる人数として1常任委員会につき少なくとも7、8人を定数基準としたい。これに委員会数を乗ずる数が定数となる。すでに定数を削減している議会では、これ以上の削減は慎重に行うべきであること、また定数を削減しても監視や政策提言が可能な議会を創出する可能性を探ることは必要である。
○ 既に定数を削減している議会で議会力をダウンさせないために@全議員による委員会を1つ設置し、議長とは異なる議員が委員長となり議案審査等を行うAすべての議員がそれぞれ複数所属する少なくとも2つの常任委員会を設置して、所管を分けて審議する。緊張感を創り出すためAをベターと考える。
○ 議員間討議の支援を住民が行うこと(委員会審議の補完)も考慮すべきである。住民の恒常的で積極的な参加により、委員会的なものに住民が参加することによって、少ない定数での議会運営も理論上は可能である。ただし、その場合には住民側の覚悟も必要である。
「所得損失手当」「世話手当」の創設を
「むすび‐現状とさらなる改革の留意点」は、委員長の江藤教授が担当した。要点は次のとおり。
○ 報酬について特別職報酬等審議会の答申を経る自治体が多いが、一度も議会を傍聴したこともない者が、あるいは議員と真摯に議論をしたこともない者が選任されることは滑稽である。議会は審議会委員の選任の妥当性を問うとともに、それらの委員と意見交換等を行う必要がある。
○ 行政改革の論理(効率性重視)と議会改革の論理(地域民主主義実現)は全く異なる。議会改革を推進することこそが行政改革を推進することになる。
○ 恒常的な夜間・休日議会については慎重な議論が必要である。日本の自治体は膨大な活動量があり議会の責任は重く、日常的な議会・議員活動が不可欠であり、会期中に議会に出席することだけが、議会・議員活動ではない。また、地域を担う住民は地域活動を担っており、夜間・休日はその活動時間・活動日であることから、そこに議員活動を加味することは困難である。
○ すでに提案されている育児手当・若者手当に加え、次の手当も想定したい。@事業所等で就労している議員が、休暇取得等により所得損失を被る場合に、その損失を補填する「所得損失手当(所得損失補填手当)」A議員活動を行うことによって、子どもや扶養家族の世話を外部に委託する場合の経費を補填する「世話手当(子ども手当・介護手当)」。
○ 議員報酬や定数の削減は、なり手不足問題を増幅させる。ただし、報酬増や定数増によって、なり手不足問題が解決されるわけでもない。そもそも、議員のなり手不足には「ならない要因」と「なれない要因」がある。報酬増をして条件が良くても議会・議員の魅力が住民に伝わらなければ立候補者は増えない。条件を整備するには住民に納得してもらうような議会改革を進めることが必要であり、それは議会・議員の魅力向上につながる。
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